こんにちは!
今回の記事では、英語のリスニングが聴き取れない原因と、その原因ごとの対策方法をまとめていきます。
これまで指導してきた中で「リスニングのスコアが伸びない…」と、頭を悩ませていた方は非常に多いです。
多くの場合、そこで「リスニング模試をひたすら解く」という解決策を取りがちですが、それでは中々課題は解決しません。
課題解決のためには「何がボトルネック(本質的な課題)か」を正しく分析して、適切なアクションを起こす必要があります。
「英語が聴き取れない」という現象を一つずつ深掘ってみると、本当の原因はリスニングではない場合があります。焦らず、自分の現状を正しく理解することが、実は最も効率の良い解決方法になります!
今回の記事が、そんなリスニングに悩む方の助けになれば幸いです。
目次:
リスニングが出来ない原因
英語のリスニングは、
- 音声知覚
- 意味理解
という二つの要素から成り立っています。
「音声知覚」とは、その名の通り英語の音を認識する力です。
耳から入ってきた音声情報を、英単語やフレーズと結びつける力を指します。
「意味理解」とは、頭の中で書き起こした英語の意味を把握する力です。
単語力や文法力を駆使して、聴き取れた情報が「どのような意味なのか」と情報処理する力を指します。
以下の図のように、プロセスとして「音声知覚 > 意味理解」の順に、音声情報を処理していきます:
これら二つの構成要素を理解して「自分は英語を聴いた時にどちらにより課題があるのか」ということを正しく理解することが、リスニング克服の第一歩になります。
リスニング課題分析チャート
リスニングが出来ない場合、まずはその音源のトランスクリプト(字幕)を確認してみましょう。
トランスクリプトをどの程度理解できたかによって、リスニングができない本当の原因が分かってきます。
以下のチャートを参考にしてください:
上記のチャートで示したように、リスニングが出来ない原因は、
- 基礎力
- 語彙力・文法力
- 英語の語順理解
- 発音の定着
- 話者による要因(音源が悪い、訛り、など)
の5つに分類できます。
これらの原因から分かるように「リスニングが出来ない…」という課題の根本的な原因は、英語の音声理解以外にある場合があります。
リスニングは聴き取れた音声情報を一度頭の中で書き起こして、そこから内容を理解します。
つまり、書き起こした内容を正しく解釈するための「リーディング力」が絶対的に必要になるということです。
「聴き取れない理由は、本当に音声認識が問題なのか…」
一度立ち止まって、自分が英語を聴き取れなかった経験を思い出して振り返ってみると良いでしょう。
原因1. 基礎力
トランスクプトを読んでも、その内容を理解できない場合「英語の基礎力不足」が大きな原因だと考えられます。
基礎力というのは、
- 基本英単語(約2,000 – 3,000語)
- 基本文法(中学 – 高校1年程度)
の二点で、英語の文構造であったり、わからない単語が多すぎることで内容理解そのものに支障が出ています。
日常会話で用いられる英単語や文法は、大半が基本的なもので構成されています。
大学講義などではなく、日常会話のリスニングで苦手意識がある場合は、コロケーションなどの基礎知識が不足している可能性もあります。
- コロケーションとは…
- いわゆる慣用句や慣用表現のように、口語特有の表現。よく使われる語句の組み合わせや繋がりのようなこと。
原因2. 語彙力・文法力
基礎力とは別に、専門的な語彙や複雑な構文を理解できない場合「語彙力・文法力」不足が大きな原因であると考えられます。
特に、
- 大学講義に関するリスニング
- 専門的な場面のリスニング(医療現場など)
などの聴き取りでスコアを落とす傾向がある場合は「語彙力・文法力」に原因があると考えられるでしょう。
基礎語彙よりレベルの高い語彙のインプットや、難解文章の読解力を高めるような対策が必要になります。
原因3. 英語の語順理解
リーディングをする時に、センテンスを繰り返し読んだり、綺麗な日本語として理解しようとする傾向がある場合は「英語の語順理解」に問題がある可能性が高いです。
特に受験勉強で「スラッシュ・リーディング」や「戻り訳し」を中心に学習してきた場合は、聴き取れた音の順番で英語を理解することに慣れていません。
戻り訳しに慣れていると、再生時間が長い音声を聴いている時にふと意味が理解できなくなったり、理解が追いつかなくなったりします。
原因4. 発音の定着
トランスクリプトを音読した時に、うまく発音できない場合や不自然な英語になってしまう場合は発音の定着に問題があります。
日本語と英語は、音声性質が大きく異なります。
例えば、
- 弱母音
- 子音
- リズムの取り方
- ストレス(アクセント)
- イントネーション
- 音声変化など
など、音のリズムを中心に言語が再現される英語と異なり、日本語は一つ一つの音がはっきりと母音と結びついて発音されます。
この違いを身体が理解できていないと、英語の音声を聴いても日本語として情報が処理され、うまく英語を聴き取ることができません。
原因5. 話者による要因(音源が悪い、訛り、など)
リスニングが出来ないのにチャートのどこにも該当しないという場合は、話者の話し言葉に癖や訛りがあったりする場合や、音源そのものが聴き取りにくいということが考えられます。
それらは、これまでの学習経験でインプットしたことない情報なので、解決方法はインプット量を増やして身体で覚えていくことが効果的です。
IELTS7.0、TOEFL100点ほど取得できる友人がオーストラリアに来た時ですら、3〜4日は「何を言ってるかさっぱり」と言っていました。感覚的に覚えている英語と、現地の英語にギャップがあり、正しく音声情報を認識できなかったようです。
対策方法
上記で挙げた五つの原因への対策方法を大きく分けると、
- 読解力の向上
- 発音精度の向上
の二点のみです。
仮に発音が正しく習得できてる場合、「5. 話者による要因」は該当する音声のインプット量を増やすことで課題は解決します。
オーストラリアに数ヶ月滞在した人が、オーストラリア英語を問題なく理解できるように、特定の音声に「慣れる」ということが大きな要因となります。
「発音がヒドくて聴き取れないんです…」というような相談をよくいただきますが、まずは自身の発音向上に努めたほうが本質的な課題解決になります!
読解力の向上
読解力を向上させるために必要なステップを、大きく以下の4つに分けてみました:
- 基礎語彙力・文法力
- 文構造の理解
- 難解文章理解
- 文章解釈力
それぞれ説明していきます。
STEP1 基礎語彙力・文法力
まずは、英語の文章を読むために必要な「基礎語彙力」と「文法力」を身につけます。
いずれも大学受験の参考書で全てカバーできるので、1〜2ヶ月で一気に消化することを目標とするとモチベーションが下がる前にインプットすることができます。
単語帳・文法参考書は、書かれている内容に大差ありません。どの本で取り組んでも結果は同じなので、自分が気に入ったものを使用してください。
そして、文法参考書は解き終えた後、1週間程度経ってから再度同じ参考書に取り組んでみましょう。
内容を7割程度忘れている状態で、再度インプットを行うことで情報が記憶に残りやすくなります。
STEP2 文構造の理解
基礎的な力が身に付いてからは、いよいよ実際に文章を読むトレーニングをしていきます。
どんなに長い文章でも骨組みとなっている部分は、
- 主語群
- 動詞群
- 目的語群(または補語)
の3つだけです。
それ以外の要素は、上記の3つの要素のいずれかに「何らかの意味を付け加える」だけの役割があります。
つまり、どんなに長くて分かりにくい文章だったとしても、結局言いたいことをまとめると「主語 + 動詞 ( + 目的語 or 補語)」のみのシンプルな構成になっています。
例えば以下のIELTSに出題される一文を見てみましょう:
- This easy (s)movement along similar latitudes in Eurasia would have also (v)meant a faster (o)dissemination of other technologies such as the wheel and writing, Diamond speculates.
上記のような少し長い文章も、核となる部分だけをまとめると、
- S = (this easy) movement
- V = (would have) meant
- O = (a faster) dissemination of other technologies
- 「このムーブメントは他のテクノジーの普及を意味した」
ということが分かり、本文で伝えたいことの半分以上を理解することができます。
このように、覚えた知識を活用して文章をできる限りシンプルに読み解いていくということに慣れていきます。
STEP3 難解文章理解
文構造ができるようになってきたら、次はあえて難関な文章に挑戦していきます。
難関な文章は、自分から読むように心がけないと一生読めるようになりません。
難しい文章を感覚で捉えることに慣れていると、その感覚をIELTSやTOEFLではついてくるので、見事に引っ掛け問題で間違えてしまう訳です。
STEP4 文章解釈力
難関な文章を読んでいると「日本語に訳せるのに理解できない文章」というものが出てきます。
そこで重要になるのが、文章の解釈力です。
つまり「この文章では何を伝えようとしているのか」ということを、文章の抽象度を変化させて理解する力を伸ばす必要があります。
英語の文章は、基本的に以下の構成で主張展開されます:
段落の中で抽象度が高いものが「Claim(主張)」にあたり、下に行くほど徐々に具体性の高い描写が増えてきます。
この「抽象 > 具体」の流れを意識して、抽象的な概念が理解できなかったら具体例から読み解く、具体例が理解できなかったら抽象的な概念と結びつける、ということができるようになるとリーディングの解釈レベルがグッと高まります。
発音精度の向上
発音精度の向上に必要なプロセスも、同様に4つのステップに分けたイメージが以下です:
- 音声性質の理解
- 個々の発音習得
- 音声変化
- 無意識化
それぞれ説明していきます。
STEP1 音声性質の理解
意外と見落としがちなのが、この「STEP1 音声性質の理解」です。
英語と日本語は、根本的な音声性質が大きく異なります。この違いを理解せずに、音だけ真似ようとしても習得に余計に時間がかかってしまいます。
特に言語習得の臨界期(16歳まで)を超えた後に、英語習得する場合は感覚的に理解するのではなく、理論から正しく理解していくほうが効率的です。
英語と日本語は、
- 子音の重要性
- 子音連続
- 「強勢拍子」と「音節拍子」
- イントネーションの役割
- 日本語に存在しない音
- (音声変化)
という点で大きく異なります。
まずはこの違いを正しく理解する。そして、「英語と日本語は違う音で出来ている」ということをしっかりと認識した上で、個々の発音習得にシフトしましょう。
STEP2 個々の発音習得
音声に関する知識をインプットしてから、個々の発音の再現方法を学んでいきます。
この時に大切なのが、自分が一番苦手としている音から練習することです。
音声習得は、できることから徐々にやるよりも、出来ないことから学習したほうが習得効率が高いと言われています。
例えば、
- [ r ] – [ l ]
- [ θ ] – [ s ]
- [ s ] – [ sh ]
- 弱母音
- 異なる「ア」の音
- 破裂音
などを中心に学習を始めると良いでしょう。
STEP3 音声変化
英語は、とても「音に敏感な言語」です。
「敏感な言語」というのは、本来持つ音が隣接する音の影響を受けて変化を受けやすいということです。これを「音声変化」と呼びます。
例えば「Can I have fish and chips?」というフレーズを発音した時を想像してみましょう。
発音記号通りに上記のフレーズを発音すると、
- [ kən ] [ ɑɪ ] [ həv ] [ fíʃ ] [ ənd ] [ tʃɪps ]
という発音記号で表記します。
それぞれの音が独立して終わり「はっきりと」発音されることが特徴です。
しかし、実際にネイティブが同じフレーズを発音する場合は以下のように、
- [ kənɑɪ ] [ həv ] [ fíʃəntʃɪps ]
と音を繋げて発音されます。
「子音で終わる音」と「母音で始まる音」をくっつけて発音する現象を「リエゾンの法則」と言います。
上記のフレーズでは他にも、andの破裂音 [ d ] が次の音にスムーズに繋がるために消失して、発音されていません。
このように、英語は文脈に応じて音声が変化する性質を持っています。
それぞれの音を正しく発音できるようになったら、このような音声変化のパターンを習得していきます。
STEP4 無意識化
正しい発音を習得して、音声変化のパターンも理解できたら、最後はそのインプットを無意識に活用できるレベルに落とし込んでいきます。
日本語を話している時に、いちいち発音のことを気にしませんよね?
それと同じように、英語も発音に意識を向けることなく、正しい発音を再現できるようにすることを、ここでは無意識化と呼ぶこととします。
無意識に英語を運用するためには、何より「場数」つまりアウトプットの量がものを言います。
学習方法は以下の順番、または以下の内容を組み合わせていくと効率的です:
- ディクテーション
- オーバーラッピング
- 音読
- シャドーイング
「発音の無意識化なのに、ディクテーションってやる意味あるの?」
そう思う方もいるかもしれませんが、ディクテーションは聴き取りの幅を増やすために並行して行うと効果的です。
例えば、オーストラリア英語やインド英語など、一口に英語といってもグローバルな言語としてその形は話者によって様々に変化しています。
2021年現在で、英語を話す人はおよそ13億人いるといわれれます。その内でネイティブとして英語を運用する人数は、およそ3億6,000人。
つまり、9億人以上が話す英語は、私たちが教科書で聴くような英語ではないということが想像できます。
日本で英語学習をしていると、ついつい、
「ネイティブの英語じゃなきゃダメだ!」
なんて、思いがちですが、選り好みをせずに様々なバリュエーションの英語に触れる方が将来的に運用できる可能性がグッと高くなります。
自分のインプットにはない英語を「集中的に聴き取る機会」として、ディクテーションを行うことは効果的であるというわけです。
最近よく耳にするシャドーイングは、非常に難易度が高い学習方法です。再現性が低い状態でシャドーイングをやっても、あまり効果がないので、自分のレベルにあった学習方法を組み合わせることが大切です!
ちなみに、正しいディクテーションの勉強方法について、以下の記事にまとめましたので参考にしてください:
まとめ
本質的な課題を見極めて最適な対策を
今回の記事の内容を以下にまとめます:
- リスニングが出来ない原因は「基礎力・語彙力/文法力・語順理解・発音習得・外部要因」の5通りがある
- 本質的な解決方法は「読解力の向上」または「発音精度の向上」の2通りのみ
- 読解力の向上は基礎力を高めることから始める。そこから徐々に難解な文章を読めるように意識的にトレーニングし、最後に解釈力を伸ばす
- 発音精度の向上はまず理論の理解から始める。そこから個々の発音 > 音声変化とインプットし、短いフレーズを正しく発音できるようになったらオーバーラッピングや音読などの学習を本格的に行うと良い
「リスニングのスコアが伸びない…」
そう感じると、ついつい私たちはリスニングの学習にばかり目が行きがちです。
「通勤中にTEDを毎日聴いてます!」
「リスニングの模試を100問解きました!」
しかし、結果は想像の通り、当初思っていたような劇的なスコアアップはありません。
つまり「スコアが伸びない原因」を正しく理解せずに、単に量を増やすだけでは何にも解決できないということです。
原因の分析と、目の前にある課題を1個ずつ地道に消化していく。結局はそれが一番の近道だったりします!
リスニングだけでなく、他のセクションでも同様に「何が問題なのか?」ということを自分で常に振り返るということがスコアアップにおいてとても重要な考え方になります。
この記事の内容が、少しでも多くの方の課題を解決するきっかけになれば幸いです。
最後に英語学習に関して、何かお悩みがありましたらお気軽にご連絡ください!